化石ハンターのサーチ考(2006年)
  
現在の仕事である 特許サーチ業務と私が趣味としている化石採集作業は「目的とするモノを探し出す」という一連のプロセスに共通点が多く、
その経験が今の仕事に少しは役立っていると考えています。目的に近いものを見つけた時の喜びはこの地道で根気のいる仕事を続けられる原動力だと思っており、特許サーチ業務と化石採集の類似点と特異点をまとめてみました。


1.化石とは
化石は英語でフォーシル(fossil)と言い、これは「地中から掘り出されたもの」と言う意味です。
則ち、化石はたいていは岩石の層中に閉じ込められており、非常に長い年月の間の侵食、風化を経て地中から見つかるからです。また化石は生物の屍骸またはその痕跡が地中に埋もれていた物であり、人の手にかかった
土器や遺構などが地中に埋もれた遺跡と区別されます。化石として現在まで残る条件として、生きていた時また死後直に地震、噴火、大水、隕石落下などの天地災害により急速に土砂などに埋もれ、
石化して固くなる事、その後の長い年月の間に破壊されない地質条件が揃う事が必要です。また化石は生物の進化や大陸の生成、移動、日本列島の誕生などの地球の生い立ちの論説の証拠となる貴重なモノです。
2. 化石採集と特許サーチとの類似点
(1)目的とする化石の理解(本願特許の理解)
目的とする化石を採集するには、まずその化石についての知識や情報が必要です。分類種別、地質時代、産地、発見者、重要度(世界最古、日本最古か等)、構造、大きさ、色や光沢などの情報です。
これは化石や地質学の本や博物館などの資料で学習します。これは特許サーチ前に本願発明の本質を理解し、本願を認定する事に相当します。
(2)産地、地層の特定(検索式の作成)
目的とする化石産地の地理や現地までのルートを案内書や地図で調べ、化石や地学の本で目的とする地層や岩石の特徴や見分け方を頭に入れておきます。やみくもにそこらの岩石を叩いても化石は出てきません。
日本列島の生い立ちは複雑で、大陸から分離した古生代の地層や中生代の日本列島形成途中に海底に堆積した地層や、日本列島形成後の海底の上下で堆積した新生代の地層や噴火した火山岩が隆起、沈降を繰り返し、
地層が入り乱れています。これは特許サーチでいえば、テーマコード,FI,Fタ−ムやワードを選定し、それらを使用してサーチを行うための効果的な検索式を作ることに相当します。
(3)発掘作業(サーチ作業)
以下に私の事例にて説明します。
写真1は愛知県渥美半島の絶滅種のオオスナモグリの化石が見つかる地層、写真4は静岡県掛川市のエンコウガニの化石が見つかる地層、写真8は石川県金沢市犀川のホクリクホタテの化石が見つかる地層です。
まず、地層の表面を目視で観察します。大雨、大波などで地層が削られ、埋もれていた化石が露出している場合があります。目的とする化石の部分構造を頭に入れながら形、色、光沢などで目の角度を変えて探します。
上から見て見つからなくても、横から見て見つかる場合があります。これは特許サーチでいえば、ワードを反転、色分けして探すか機構図面や制御フローを形で探すのに相当します。その後、岩石を割りながら化石を探します。
写真5は写真4の地層から産出したエンコウガニの化石でノジュール(化石を中心に岩石に含まれる金属が置換して固くなったモノ) のモノで産出時は脚の一部のみが出ていました。
写真9は写真8の地層の一部で雪解けの水の流れで露出したホクリクホタテの化石です。また化石1固体が割れてパーツ部分で見つかる場合があります。
写真10は掛川市で採集したイタチ鮫の歯の化 石です。別々に採集した部分パーツを後で結合したものです。これは特許サーチではY1、Y2文献を見つけた時の気分に近いといえます。採集に行っても何も見つからない場合
があったり、目的と違う化石がみつかったりします。これは特許サーチでいえば、A文献も見つからなかったり、本願とは別の同類特許のX文献を見つけたりすることに相当しますが、化石採集では良くある事です。
今まで採集できた化石層が人為や自然現象により無くなったり、埋もれていた化石層が新たに露出したりして化石層の露出状態は刻々変化するからです。
4)クリーニング作業(選出作業)
家に持ち帰り、掘出した岩石を細かく砕いて化石を取り出すクリーニングという注意力と根気力がいる作業を行います。写真3は写真2の地層のノージュール化 した巣穴部分を持ち帰りクリーニングして取り出したオオスナモグリ
の化石の第1脚部です。また写真5はエンコウガニの化石のクリーニング途中のもので、写真6はクリーニング後のもので、全身が残っています。この作業は特許サーチで抽出した文献を印刷出力し、後で精読して提示すべき文献か
否かを判別する作業に相当し、化石の完全体を抽出できた時の喜びと満足感はX文献を見つけた時と同一のモノと言えます。
3. 化石採集の特異点と魅力
化石ハンターはまずは公知の化石と類似品の採集を目標にします。これは前述のように本願特許の査定引用文献を探す検索業務に相当しますが、時として珍しい化石や新種らしき化石を発見する場合があり、
公的機関で新種と認められれば、発見者となれます。則ち、特許でいえば一躍発明者になれるわけで、特許サーチ業務には無い化石採集の醍醐味がそこにあります。
写真11、12のタイ科の魚類化石の写真は数年前に見つけたものです。ほぼ丸ごと一体あり鋭い棘や鱗などの外皮も残っており、海底噴火や地震などの地崩れで圧縮され埋もれたと推定されます。化石ハンターは
このような希少な化石を見つけることを最終目標としており、誰にでもその可能性が あるのも化石採集の魅力と言えます。また写真13の写真は恐竜化石が発掘された三重県鳥羽市の化石産地での採集風景です。
一億年前に埋もれ た化石が再び地表の空気に触れ、目の前に現れた時の感動は得難いものです。 「化石採集の6つの楽しみ」をそのまま記載して終わりとします。
1.採集に行く計画を作る楽しみ。
2.現地に行き採集場所を探す楽しみ。
3.化石が入った岩石を見つけ出す楽しみ。
4.岩石から化石を取り出す楽しみ。
5.それが何の化石であるかを調べる楽しみ。
6.それをメンバーに見せて自慢?する楽しみ。
その結果により、喜びとなったり、悲しみとなったりしますが、その繰り返し、経験が大切で、知識や情報が増えるにつれ成果もあがって来ます。



↓<写真1>愛知県渥美半島の約30万年前の地層


↓<写真2>オオスナモグリが含まれる図1地層


↓<写真3>写真2の地層より産出したオオスナモグリ


↓<写真4>静岡県掛川市の約300万年前の地層


↓<写真5>エンコウガニ:クリ−ニング途中


↓<写真6>エンコウガニの化石


↓<写真7>エンコウガニ採集サンプル
↓<写真8>石川県金沢市犀川の約100万年前の地層


↓<写真9>ホクリクホタテが露出した図8の地層




↓<写真10>掛川市から産出したイタチザメの歯化石



↓<写真11>三重県鳥羽市の化石産地での採集風景


↓<写真12>掛川市から産出した魚類化石

↓<写真13>

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