沖縄からの便り1(2012年)
化石活動総括と沖縄での近況

  
瑞浪市化石博物館友の会の機関誌に投稿したもので、沖縄に住居を移したのを機に今までの化石活動を総括し、ここ一年の沖縄での活動について書いています。

1.はじめに
  2011年の3月に住居を沖縄県名護(なご)市に移したので、瑞浪市化石博物館友の会の活動への参加はなかなか出来ませんが、沖縄での活動状況と雑感を毎年友の会機関誌Vicaryaに投稿したいと思います。

2.化石活動を振り返って
沖縄に来るまでの化石に関する活動を振り返ってみたいと思います。
2-1 大桑層の化石
 私が初めて化石を採取したのは18年前の1994年の郷里(石川県白山市美川町)に近い金沢市の夕日寺という所でした。それまでは化石には関わらず、採集できることも知りませんでした。 同じ地層の犀川(さいがわ)の大桑(おんま)層を知り在住の愛知県豊川市から実家に帰る折に立ち寄り各種の化石を採集しました。(2007年機関誌Vicaryaに投稿)
2-2 瑞浪市化石博物館友の会
 1995年に瑞浪市化石博物館を訪れた時に友の会に入会し、その後友の会の化石採集巡検や友の会運営活動に参加しました。初めての長野県豊科の巡検で新生代第3紀青木層のクジラの肋骨を帰る真際に 採集でき嬉しかった事を覚えています。
2-3 白峰恐竜調査
 犀川で採集した魚化石の鑑定依頼で石川県白峰村恐竜博物館を訪れた際に知った恐竜発掘調査に何回か参加できたのも良き体験でした。残念ながら恐竜の化石は発見できませんでしたが、参加された北陸や 名古屋の東海化石研究会の化石専門家と懇意になりました。
2-4 東海化石研究会
 その後1996年に東海化石研究会に入会し、巡検や研究例会に参加して多くの化石に関する知識や情報を得る事ができました。また東海化石研究会主催の中国巡検旅行に何回か参加し、恐竜化石発掘現場、 自然史博物館、文化史跡などを見学できたのも貴重な体験でした。
2-5 渥美半島の化石
 在住の愛知県の豊川市から近い渥美半島に良く通い採集した巣穴に入ったスナモグリの化石は希少なもので、渥美半島の特異な地質の成り立ちが関与していると思われます。(2002年機関誌Vicaryaに投稿)
2-6 東京での活動
2004年に仕事の関係で東京都国立市に住居を移したため前記友の会や研究会の活動に参加する機会が少なくなりましたが、関東地域の秩父などの化石産地や自然史博物館を時々訪れました。 また2008年に野尻湖の17次発掘調査に参加でき、ナウマンゾウの骨の一部を採集できたのと、4万年前の人類の狩りの痕跡を野尻湖の湖底から掘り出すというロマンを体験しました。
2-7 豊橋市自然史博物館への寄贈
 沖縄に移動する前に犀川、渥美半島、掛川などで採集した化石を豊橋市自然史博物館に寄贈しました。

3. 沖縄での活動状況
以後沖縄での活動状況を記します。
3-1名護市概要
 現在住んでいる名護市は沖縄本島北部の中心の市でやんばる(北部)や本部半島への拠点地です。名護市は最近日本ハムのキャンプ地で有名になりましが、名護市の東側にある辺野古(へのこ)は米軍普天間飛行場の 移転問題で存在を知られています。辺野古へ行き、米軍基地との境界フェンスから水陸両用車の訓練を見ました。きれいな海を埋め立てるのは抵抗がありますが、単純に反対できない複雑な問題があり、 名護人(ナゴンチュという)として真意に考えていかねばならないと思っています。名護城は八重岳(やえだけ:本部町)、今帰仁(なきじん)城、と共に日本一早いカンヒザクラでも知られており、1月末のさくらまつりで賑わいました。
3-2 名護博物館友の会
  名護市に来てすぐに名護博物館友の会に入会しました。自然、動物、地質、民族などの総合博物館(写真1)で化石に関するものはほとんどありません。博物館の行事にできる限り参加して知識と情報を得ています。 現在の建物(元は市役所だった)は狭く改築の計画があり、その企画にも参画していますが、やんばる(山原:沖縄本島北部)の中心的博物館になったらと思います。
3-3 北部の地質めぐり
 博物館の行事で沖縄北部の地質を巡る学習会に参加し各地の地層(写真2)や化石層(写真3)を見聞して沖縄北部地形の成り立ちを知りました。名護市街(中心地)は昔は海峡で島であった本部(もとぶ)半島と本島西海岸が地滑りで 埋まり陸地となったそうです。名護市街方向を恩納(おんな)村側から名護湾を挟んで見ると低い平地が向こうの羽地(はねじ)内海にまで続いて、両側はせり上がった傾斜地になっており元は海峡であった事が理解できます。(写真4)
3-4 羽地内海
羽地内海は本部半島(今帰仁)の東北部が陥没して海となり今帰仁村(なきじんそん)と屋我地(やがち)島との間に出来た狭い海です。羽地内海の両側入口は狭い海路となっておりチリー地震の時に両サイドから入って来た津波が合流 して我地島の低部が被害を受けました。羽地内海はその地形の故に瀬戸内海のように穏やかで台風時は大型船の避難場所となっています。今帰仁側には伊是名島、伊平屋島への船発着ターミナル運天(うんてん)港があります。 運天と屋我地島の間の海は狭く今はワルミ橋でつながっています。(写真5) 屋我地島、運天の北側に古宇利(こうり)島がありますが、この島も陥没でできたそうで屋我地島と古宇利島大橋(無料では日本一長い)でつながっています。
3-5 今帰仁城跡
 名護市から車で25分位の北部に琉球王国時代の城(グスク)で世界文化遺産に登録されている今帰仁城跡があります。琉球の城の石垣は曲線状ですべて石灰岩を積み重ねていますが、今帰仁城の城壁のみ中生代三畳紀の 今帰仁層古期石灰岩で造られており、(写真6) 石垣や前庭にある黒い石灰岩には小さなアンモナイトが露出しています。(写真7)
3-6 美ら海水族館
   名護市から車で30分位の所の本部半島に35年前に世界海洋博覧会(その時に私は初めて沖縄を訪れた)が開かれた海洋博記念公園があり、その中にある美ら海(ちゅらうみ)水族館の「黒潮の海」は世界最大の水槽で悠々と泳いでいる 複数の大きなジンベイザメマンタが見られます。(写真8) 一年中温暖な海水を直接水槽に循環させて、オキアミなどなどの餌で濁る水槽の水を2時間で浄化できます。沖縄本島西側を北上している黒潮がもたらす年中 暖かい海がこのような大型魚の飼育と繁殖を可能としています。私は美ら海水族館の年間パスを持っており、いつでも長時間黒潮の海を見る事ができるのも近くに住んでいる特権です。
3-7 ヤンバルクィーナーの保護
 名護市より北の大宜味村(おおぎみそん)、東村(ひがしそん)、国頭村(くにがみそん)の北部地域にやんばるの森があります。中央部に米軍演習場があり人が入る事が出来ないが故に自然が守られているとも言えます。 ヤンバルクィーナーのような固有の希少動物が多種生存しており、保護活動や施設を見学する名桜大学の公開講座に参加しました。ハブを退治するために導入したマングースの遮断、捕獲作戦が進行中で、 保護シェルターではヤンバルクィーナーの行動がリアルタイムに見られます。
3-8 沖縄本島一周あるき
 沖縄を隅々まで知ろうと昨年の8月から沖縄本島の海岸線を断続的に歩いています。その地の集落の民家(写真9)、史跡、御獄(うたき)(写真10)、公共施設、漁港などに寄り写真に記録しています。また集落の人と話をして色々な情報を 得ますが、思いがけない発見があります。海岸ではビーチコーミングもしますが本土と違う沖縄特有の物が拾えます。また路上で時々沖縄固有の動物にも出会います。別々の場所ですがヤンバルクィーナーとマングースも見ました。 (写真11、12)
以下は歩いていて見つけたもの一部の写真です。シャコガイなどの大型貝(写真13、14)や牛、山羊などの哺乳類の骨、海性哺乳類や魚の骨、ウミガメの甲羅や骨などを海岸で見つけました。 海岸を歩いていて化石層を時々見つけます。新生代第四紀の琉球石灰岩の中のサンゴ、シャコガイなどの貝類の化石(写真15)、クジラの肋骨の化石 (写真16)が露出しているのを見つけました。
4.おわりに
 この一年で沖縄の事がかなり分かって来ました。これからは活動の分野を絞り、さらに掘り下げていこうと思っています。また化石産地の探索、調査、採集にも力を入れたいと思いますがどうなるでしょうか?

  参 考 文 献
・ 新谷寿一 大桑層との出会い(2007),Vicarya(瑞浪市化石博物館友の会機関誌)
・ 新谷寿一 スナモグリと巣穴化石(2002),Vicarya(瑞浪市化石博物館友の会機関誌)
・ 豊橋市自然史博物館 表浜の自然 <渥美半島の成り立ちと砂畢の生き物>(2011),豊橋市自然史博物館ガイドブック8
・ 名護博物館 名護・やんばるの地質(2011)


<写真1>名護博物館


<写真3>今帰仁村運天の新生代化石層


<写真5>羽地内海への狭い水路(ワルミ橋から見た)


<写真7>今帰仁城跡石灰岩中のアンモナイト化石


<写真9>国頭村阿波(あは)のセメント瓦の古民家


<写真11>国頭村安田の路上のイボイモリ


<写真13>備瀬海岸で掘出した大きなシャコガイ


<写真15>宜野座松田の石灰岩中のシャコガイ化石

<写真2>名護市天仁屋の5千万年前の褶曲した地層


<写真4>昔は海峡の名護市街(中央の平地)


<写真6>世界文化遺産今帰仁城跡の曲線状石垣


<写真8>美ら海水族館の黒潮の海のジンベイザメ


<写真10>大宜味村津波(つは)の御獄と神社


<写真12>恩納村の元いんぶビーチのマングース


<写真14>屋我地島で見つけた大きなカラス貝


<写真16>宜野座松田の石灰岩中のクジラ肋骨化石

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